Top > 漢字処理研究室 > 「第3回ワークショップ: 文字 ―新常用漢字表を問う Part 2― 兼「文字研究会」(仮称)設立準備会」レポート


「第3回ワークショップ: 文字 ―新常用漢字表を問う Part 2― 兼「文字研究会」(仮称)設立準備会」レポート このエントリーを含むはてなブックマーク

2009年7月18日、花園大学・拈花館202教室で開催されました 「第3回ワークショップ: 文字 ―新常用漢字表を問う Part 2― 兼「文字研究会」(仮称)設立準備会」は、 おかげさまで無事終了しました。 発表者、参加者の皆様に感謝申し上げます。以下、簡単なレポートを掲載します(文責: 師茂樹)。

各発表の要旨

當山日出夫「開会挨拶 WS文字から文字研究会へ」

新常用漢字の問題がきっかけとなって、ブログを中心に文字に関心がある人々のゆるやかなコミュニケーションの場が形成されてきたことをうけて、 昨年の「ワークショップ: 文字 ―(新)常用漢字を問う―」、 2回目の「ワークショップ: 文字 ―文字の規範―」を開催し、 多くの参加者を得た。 そこでは、新常用漢字についての具体的な問題について論じただけでなく、 そもそも文字とはどのようなものなのか、というような本質的な問題についても議論してきた。 現状では、アカデミックな文字研究者のための学会組織もないうえ、 文字研究のためにはアカデミックな研究者だけでなく、文字コードの標準化の関係者や文字を扱うソフトウェアの開発者、 印刷組版やフォントデザインなどの現場で文字を扱っている人々の参加が不可欠である。 そこで、文字をめぐる諸問題について様々な分野の人々が自由に議論ができる場として、 文字研究会を発足した。 自由に気楽に文字について語り合うために、 会員組織にはせず、有志による運営を行う予定である。我こそはという発表者を募る。

参考

安岡孝一「姿と恣と盗 —新常用漢字表字体の源流—」

新常用漢字表に掲載されている「姿」と「恣」と「盗」は、同じ「次」という部品を共有するにも関わらず 「次」の字体がすべて異なるという奇妙なことがおきている。 その直接の原因は、ジャストシステムの『一太郎2005』のユーザのみが入手可能なフォント「JS平成明朝W3:2004」を使って この表が作成されたからと推測されるが、その背景としては、当用漢字字体表以来、 石井細明朝体と大蔵省印刷局書体における字体解釈の差が平成明朝を経て現代にも残っていることが見出される。 そして、新常用漢字表の字形を常用漢字表と乖離させないためには、 戸籍統一文字を使って作表することが現時点では妥当であろうと思われる。

参考

予稿(改訂稿)がhttp://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~yasuoka/publications/2009-07-18.pdf で公開されています。

小形克宏「漢字小委員会における審議の実際 —字体をめぐる対立を題材として—」

森田朗『会議の政治学』を参照しつつ、 漢字小委員会における審議の仕組みや運営方法、事務局の役割などについて概観した後、 第27〜30回漢字小委員会において、意見の対立がいかにして収束していったかを分析した。 審議会の性格を念頭に置けば、字体のゆらぎをある程度認める今回の案は、 現今のゆらぎを許さない漢字教育の方針に変更を迫るものとも解釈できる。

参考

高田智和「白書コーパスの字種・字体」

国立国語研究所が構築している「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の中に含まれる 「白書コーパス」を用いて、 1976年から2005年までに刊行された『経済白書』『環境白書』『通商白書』などにおける漢字の使用状況について分析した。 その結果、今回の新常用漢字で追加候補漢字とされている漢字については、 それ以外の漢字(既存の常用漢字、追加候補漢字をのぞく漢字)とあまり変わらない傾向が見られた。 また、語彙調査に依らず頻度調査だけに頼る危うさを指摘した。

川幡太一「漢字とオープンソース辞書・ソフトウェア」

漢字について調査をする際には辞書・字書の利用が不可欠である。 現在、有償のものからフリーなものまで、コンピュータで利用可能な漢字辞書が多数入手可能であるが、 それらの多くはインターフェースが統一されておらず、横断検索をすることもできない。 しかし現在、Emacsen用の電子辞書横断検索ツールであるLookupを改良することで、 様々なフォーマットの漢字辞書を串刺し検索することが可能となってきている。 また、複数人が集まって独自に辞書を効率的に開発する環境も、Lookupの技術や ソフトウェア工学の方法を取り入れて実現できるのではないかと考えられる。

的場仁利「文字の現場の目」

現在、DTPソフトが次々にリリースされ、発達していく反面、 引用符の組み方の混乱、フォントの不適切と思われる使用法、字体に関する不均衡な運用など、組版の質の低下が進んでいる。 また、9割以上を中小事業者が占める印刷業界においては、生産性や売上のみを重視し、手間がかかることを避けようとする気風が蔓延しており、 スキルをあげるために必要な「考えること」「疑問に思うこと」がおろそかになっている。 文字文化の持続的な発展のためには、このような体質を改善し、 適正な組版や印刷物の生産を保証するような新しい枠組が必要ではないだろうか。

参考

師茂樹「文字を“わたる”ことについての予備的考察」

異なる字体・書体の文字のあいだ「わたる」能力は人間の文字使用における根本的な能力のひとつであり、 漢字教育や文字コードの標準化などにおいては重要な問題である。 しかしながら、「わたる」という行為がそもそもどのようなもので、 またどのようにして人間はわたる/わたらないの境界線を引いているのか等々については、 これまではっきりと提示されたことはほとんどなかった。 この発表では、抽象文字に関するクヌースの議論と、それに対するするホフスタッターの批判を軸に、 文字間の差を距離の遠近あるいは多数決的にとらえようとする考え方が不十分であることを指摘し、 わたる/わたらないの境界線が満場一致的に決まる(変化するときには相転移的に変化する)という視点を提示した。

全体討論

今回も家辺勝文氏(日仏会館)に総合司会をお願いし、 限られた時間ではあったが、活発な議論が行われた。 「教育現場から不適切だと指摘を受けた「淫」「呪」「艶」「賭」など一部の漢字について再検討することを決めた」 と報じられた前日の読売新聞の記事(淫・呪・艶・賭…常用漢字の追加再検討へ : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)) についても、漢字小委員会での議論も含めてこの場で紹介、検討された (小熊善之氏の「本日の漢字小委員会にて」 「Re:ニュースに惑わされてる人は誰?」、 小形克宏氏の「第34回漢字小委員会が開催される - もじのなまえ」 を参照されたい)。

懇親会

海鮮と炭火焼 わら家で懇親会を行った (会計報告は「会計報告 - もろ式: 読書日記」を参照)。

次回以降の日程として、2010年1月23日(第4回ワークショップ/第1回研究会)、 2010年7月23日(第5回ワークショップ/第2回研究会)を 軸に調整していくことが提案された。


|

$Id: 20090718.report.html,v 1.3 2009-07-22 22:21:20 cvs Exp $
since: 2009-07-22